顎変形症などの骨格的な要因が強い症例の外科的矯正治療
アゴの形や大きさに問題のある方の外科矯正治療
下アゴが大きすぎることで強い受け口となっている方や、下アゴが側方に歪むことでお顔が曲がっている方など骨格的要因が強い症例(顎変形症)においては、矯正治療に加えアゴの手術を行う外科矯正治療が必要です。
当院で顎変形症と診断され外科矯正治療を行う場合、矯正治療に保険を適用できます。また関連医療機関で手術を行う際も、保険を適用できます。
外科矯正治療の一般的な流れ
1. 検査・診断
初診時に歯と顎の形態を三次元的に診断し、治療計画を立案します。
【顔面非対称例】
主訴 | アゴの歪みを直したい |
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診断名 | 前歯部の叢生、上顎歯列の狭窄、下顎歯列の正中偏位を伴う顔面非対称例 |
初診時年齢 | 19歳2ヶ月 |
症状 | 下顎骨の非対称、オトガイ正中の左方偏位、前歯部の叢生、 上顎歯列の狭窄 |
主な矯正装置 | マルチブラケット矯正装置、歯科矯正用アンカースクリュー |
手術 | 下顎枝矢状分割術、上顎皮質骨切り術 |
抜歯 | 上下顎の親知らず |
治療期間 | 1年6ヶ月(装置により歯を動かしている期間) |
費用 | 保険適用 |
※治療上のリスクとして歯肉退縮、顎関節症、歯根吸収、カリエス、失活歯、クラック、根の露出、骨隆起、劣成長、歯周病治療があります。また、治療には個人差があります。あくまでご参考とお考え下さい。
2. 手術前矯正治療
初診時に歯と顎の形態を三次元的に診断し、治療計画を立案します。
3. 手術前の検査・診断
手術直前に内科検査、麻酔検査を行います。歯列と顎骨を三次元的に診断することで手術法を最終確認し、手術のシミュレーションを行うことで修正する顎骨の位置を決定します。決定した顎骨の位置を、実際の手術時に再現するため、模型上で顎間固定用スプリントを作製します。
4. 顎変形症手術(顎骨骨切り術)
下顎骨や上顎骨の形態や位置を手術により修正します。顎骨を分離したのちスプリントがしっかり噛む位置に誘導し、顎骨形態が改善した新たな位置で骨片を固定します。
5. 手術後矯正治療
退院後すぐに矯正治療を開始し、手術後の不安定な噛み合わせを早期に解消し、正常な咬合関係を確立します。
6. 動的矯正治療終了、保定開始
手術後の矯正治療は一年ほどで終了し、改善した歯列を安定させるための保定を二年間行います。
顎変形症手術
顎変形症の手術は、歯科口腔外科あるいは形成外科に依頼して全身麻酔下で行われます。医療機関、手術内容により異なりますが、手術時間は2~3時間程度で、1~2週間程度の入院が必要です。
下顎骨の手術
通常多くの症例で下顎骨の手術が行われます。
下顎枝矢状分割術
1960年代にObwegesserにより紹介されて以来今日においても、世界で最も信頼され行われている手術です。下顎骨の後方部の関節に向かう下顎枝という部分を矢状面方向に分割することで、歯が植立されている下顎体部と左右の下顎枝部を切り離します。これにより下顎体部を三次元的に移動することができ、手術シミュレーションにより予め準備した顎関固定用スプリントを用い、適正な位置に誘導します。スプリントをきちんと咬んで下顎枝部が顎関節に収まった位置を確認し、チタン製のスクリューやプレートにて切り離した骨片間を固定します。
手術操作はお口の中からアプローチし、下顎枝の前方部に縦方向に10cm程度の切開が入り、骨を露出後に下顎枝の矢状分割を行います。その他顎角部(アゴのエラの部分)の下に約5mm程度の切開が入りますが、痕はほとんど残りません。
下顎骨矢状分割術
上顎骨の手術
代表的なものとしてLe-FortⅠ骨切り術があります。上顎骨全体を切り離し、三次元的な位置異常を修正します。
上顎 Le-FortⅠ骨切り術
上顎骨の前方移動
反対咬合は、下顎骨が大きいことにより起こるだけでなく、中顔面の上顎骨の前方発育が悪いことが原因で起こることがあります。このような場合、上顎骨を手術し前方へ移動することで反対咬合を直します。
【上顎骨の劣成長を伴う前歯部反対咬合症例】
主訴 | 前歯が反対に噛んでいて気になる |
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診断名 | 上顎骨の劣成長による前歯部反対咬合症例 |
初診時年齢 | 27歳11ヶ月 |
症状 | 上顎骨の劣成長、前歯部反対咬合、前歯部叢生 |
主な矯正装置 | マルチブラケット矯正装置 |
手術 | 上顎Le-Fort I骨切り術 |
抜歯 | 上下顎の親知らず |
治療期間 | 2年6ヶ月(装置により歯を動かしている期間) |
費用 | 保険適用 |
※治療上のリスクとして歯肉退縮、顎関節症、歯根吸収、カリエス、失活歯、クラック、根の露出、骨隆起、劣成長、歯周病治療があります。また、治療には個人差があります。あくまでご参考とお考え下さい。
上顎骨の拡大
顎変形症者では上顎骨が側方的に狭窄している症例が少なくありません。当院ではより確実で患者さんへの手術侵襲が少ない方法として、急速拡大装置とCorticotomyを併用することで、上顎骨の拡大を行っております。
上顎骨のCorticotomyと急速拡大装置
【上顎骨が狭く奥歯が反対に噛んでいる】
主訴 | 奥歯のかみ合わせが気になる |
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診断名 | 上顎骨の狭窄を伴う臼歯部反対咬合症例 |
初診時年齢 | 27歳11ヶ月 |
症状 | 上顎骨の狭窄、前歯部叢生 |
主な矯正装置 | マルチブラケット矯正装置、急速拡大装置 |
手術 | 上顎皮質骨切り術 |
抜歯 | 上下顎の親知らず |
治療期間 | 2年3ヶ月(装置により歯を動かしている期間) |
費用 | 保険適用 |
※治療上のリスクとして歯肉退縮、顎関節症、歯根吸収、カリエス、失活歯、クラック、根の露出、骨隆起、劣成長、歯周病治療があります。また、治療には個人差があります。あくまでご参考とお考え下さい。
顎骨の位置付け
顎変形の改善の成否は、骨切りした骨片を如何に適性に位置付けるかにかかっていることは言うまでもありません。顎骨をより確実に適切に位置付けるため、当院では複合現実感を伴う手術シミュレーションシステム ManMoSを利用しております。適正な位置を決定したのち、模型上で顎関固定用スプリントを作成します。手術時にこのスプリントを用いることで、シミュレーションした顎骨の位置を正確に再現します。
手術シミュレーションシステム
三次元的な手術のシミュレーションを参照し、正確なアゴの位置付けを決定します。
シミュレーションを参照し決定したアゴの位置で、顎間固定用スプリントを作製します。
このスプリントに合わせて手術が行われます。
顎関固定用スプリントの作成
顎変形症の治療例
下顎前突症例
下アゴの成長が強く、下顔面の前突と前歯の反対咬合が認められました。矯正治療と下あごの手術を併用することで、正しい咬み合わせが得られるとともに下アゴの前突が改善し、バランスの取れた横顔が回復します。
【下の顎が大きく前歯が反対に噛んでいる症例】
主訴 | 下の顎が出ていて気になる |
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診断名 | 下顎骨の過成長による前歯部反対咬合症例 |
初診時年齢 | 20歳1ヶ月 |
症状 | 下顎骨の過成長、前歯部反対咬合 |
主な矯正装置 | マルチブラケット矯正装置 |
手術 | 下顎枝矢状分割術 |
抜歯 | 上下顎の親知らず |
治療期間 | 2年5ヶ月(装置により歯を動かしている期間) |
費用 | 保険適用 |
※治療上のリスクとして歯肉退縮、顎関節症、歯根吸収、カリエス、失活歯、クラック、根の露出、骨隆起、劣成長、歯周病治療があります。また、治療には個人差があります。あくまでご参考とお考え下さい。